夜10時以降はダメ。平日は1日90分以内。ゲーム用の兵器やコスチュームが欲しくても、課金は月に57米ドル相当まで。
中国政府は2019年11月、18歳未満を対象にしたオンラインゲームの新しい規則を発表した。依存症になるのを防ぐためとしている。近視の増加や学力の低下という大きな社会問題の元凶と政府高官は見なしており、これに歯止めをかけるのが狙いという。
この新規則によると、夜10時から朝8時まではゲームをしてはならない。許される時間帯でも、平日は90分を超えてはならず、週末や祝日は3時間以内に限られる。
今回の規制は、世界最大の規模を誇る中国のオンラインゲーム業界を統制しようという政府の最新の試みでもある。年間の売り上げは330億ドル、利用者は数億人にも上る巨大な市場だ。
習近平国家主席の体制下で、当局は中国共産党の文化政策を社会に浸透させるために、IT大手への締め付けを強めている。
その格好の標的になったのが、ビデオゲームだ。意に沿わないいくつかのゲームを国営メディアは「毒」に例える。あまりに暴力的として当局が禁じたものもある。
習主席はすでに18年に公の場で子供の視力が低下していることに触れ、対策の強化を促している。
今回の新しい規則では、未成年者がオンラインゲームにログインするには実名と(訳注=マイナンバーにあたる)自分の個人番号を使わねばならない。ゲームに関連した課金も、年齢に応じて月28~57ドル相当に制限される。
当局は、依存症に対する取り組みであることを強調する。
「この問題は、未成年者の肉体的、精神的な健康だけでなく、普段の勉強、日常生活にも悪影響を与えている」と国営新華社通信は当局の声明を伝えている。
ただし、業界側はこうした規制をほぼ織り込んでおり、売り上げに大きく響くことはあまりなさそうだと専門家筋は見ている。最大手のテンセント社やネットイース社を始めとする多くの企業は、すでに未成年者の利用を制限する措置に踏み切っている。
一方で、新規則を完全に順守させることも難しそうだ。親の電話や個人番号を使うといった抜け道も予想されるからだ。
「抜け道がなくなることはないだろう」と中国のゲーム市場に詳しい調査コンサルティング会社ニコ・パートナーズのシニアアナリスト、ダニエル・アハマドはいう。
それでも、世界のビデオゲーム市場の中で、今や中国ほど規制が厳しいところはないとアハマドは指摘する。だから、中国内外のIT企業は、政府が発表する政策にこれまで以上に厳格に従うよう迫られると見ている。
「西側の基準と比べて極端なほど大きな違いがあり、中国市場に出すゲームの開発では内容によくよく注意する必要がある」とアハマドは忠告する。
事実、中国市場の重みを示すかのような事例も出ている。米ゲームソフト会社のアクティビジョン・ブリザードは最近、香港の反政府デモへの支持を競技の中継中に表明したeスポーツの選手の出場停止を決めた。中国政府の意向を忖度(そんたく)したとの見方が一般的だ。
その一方で、新しい規則に首をかしげる親やゲームの利用者もいる。中国東部でハイテク企業を営むヤン・ピンペン(35)は、それでも子供たちはゲームをする方法をいろいろ見つけるのではないかと心配する。例えば7歳の自分の息子は、ネットを介さないゲームをよくやっていて遊ぶ時間を守らせるのが難しい。
「ゲームに代わるものを作り出さなければダメだ」とヤンは思う。
もっと多くの競技場を建て、サッカー場やバスケットボールのコートを作る――「そう頭を切り替えたほうがよい」というのだった。(抄訳)
(Javier C. Hernandez and Albee Zhang)©2019 The New York Times
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